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 アイコン Vivendo insieme〜同居人〜

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   こちらはまだ完結していません。途中までで申し訳ありませんm(_ _)m

 ライン ライン

「ツッく〜ん。早く起きなさ〜い。遅刻するわよー」

階下のキッチンから母の声が響いてくる。

7時ちょうどにセットされていた目覚まし時計はとっくの前に自身の手によって止められ、

カチカチカチ…という規則正しい音を立てていた。

「……う、う〜ん」

黒いシンプルなパイプベッドにまるで亀の甲羅のような山をつくって、あたたかな掛け布団に包まれたこの部屋のあるじ沢田綱吉は、

まるで「ここから動くのが絶対にいやです」とでも言うように、ちいさく抗議の声を上げた。

トントントントン。

―――…バタン!

「ちょっとツッくん、いつまで寝てるの!

もう起きないと遅刻するわよ。いい加減に起きなさいっ!」

大切にくるまっていた掛け布団を母によってはぎ取られ、ゆるく寒気を覚えた綱吉は、

大きくあくびをしながら仕方なさそうにベッドの上に起き上がった。

「っもう!今日は母さん忙しいんだから、あんまり手間を掛けさせないでちょうだい。

ツッくんにも昨日のうちに言ったでしょ?今日は久しぶりにお父さんがお客様を連れて帰って来るのよ。

――ホラ、このお部屋もお掃除しますからね!さっさと着替えて…!」

朝から元気な母の剣幕に多少気押されつつも、綱吉はゆっくりと立ち上がり着替えの制服を手に取った。

「……なにが父さんだよ。あんな奴、きまぐれにしか帰ってこないじゃんか……」

普段家庭を放りっぱなしで家を空けている父親の話なんかされると、朝っぱらからものすごく気分が悪い。

とりあえず制服を着込んで時計を見ると、ちょうど8時になるところだった。

これくらいなら少し早歩きをすればHRには間に合うだろう。

寝癖で四方八方にちらばる髪を簡単に梳くと、机の上に投げっぱなしだった学生かばんを取って

綱吉は急いで部屋を飛び出した。





キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン。

「――よっ、ツナおはよう」

HR開始の予鈴とともに教室へ駆け込むと、唯一の親友山本武が手を振って綱吉を迎えた。

「あっ、山本。おはよう」

にっこりと微笑めば、綱吉の斜め後方の席に腰掛けたままの彼は、身体をぐいっと前のめりにして綱吉に近付いた。

「なぁ、ツナ知ってるか?今日このクラスに転校生が来るんだってよ」

「……ふ〜ん?そうなんだ。男子?それとも女子?」

「んん、それがさー。噂じゃすっげー美人の男らしいんだよなぁ」

「………?美人?女の子じゃなくて……?」

変な言葉の言い回しに綱吉は首を傾げる。

「野球部のひとりが今朝見たらしくてさぁ…。

ちょっとワルそうな雰囲気で、超キラキラした男だったんだってよ。ちょっと見てみたいよなぁ」

好奇心に山本はニッと笑ってみせた。

「――そうだねぇ…。綺麗な男子って、俺見たことないかも」

「確かに。ツナは綺麗っていうよりは断然カワイイ系だもんな」

「ええっ?何それ山本。ぜんぜん嬉しくないんですけど……」

コンプレックスに触れられてギロリと睨み返せば、「降参降参、でもまぁ褒めてんだからさ、そんな怒んなよ」

と山本はひらひらと手を振って見せたのだった。



「HR始めるぞ〜。皆席につけ」

本鈴の合図とともに担任が教室に入ってくると、皆一斉に己の席へと急ぐ。

「きりーつ、おはようございまーす」

通例どうりのあいさつを交わし席に着くと、担任が黒板に見慣れない名前を書き込んだ。

「今日は皆に転校生を紹介する。――とりあえず入って……」

廊下側の扉の向こうにいるのであろう生徒に声を掛けると、軽い木製の引き戸がカラカラと音を立てて開いた。

――そしてその人物が教室に入って来るなり上がる、黄色い歓声。

まぁそれは女子が発したもので、男子達はと言うと転校生の発する明らかに穏やかそうではない雰囲気に

大半が冷や汗をながしていた。

「――ちょっと、あの人すんごいカッコ良くない!?」

「うんうん、あたしこんなにきれいな人はじめて見たよ〜」

「……おい、あれは明らかにやべぇよ」

「触らぬ神に祟りなし、だな………」

コソコソと皆が口をひらく中、山本だけが嬉しそうに笑っていた。

「なんか面白そうな奴が来たな〜!なぁ、ツナもそう思わね?」

「…う、んん…?そうかなぁ……」

さすが山本、まったくビビっていない。

当の綱吉はと言うと、他の男達と全く同じ感想を浮かべて苦笑いだ。

(……なんか怖そうな人が来ちゃったなぁ……。俺ああいうタイプすんごく苦手なんだけど……。

パシリとかにされないといいけどなぁ……)

「だって俺、ああいう人と関わるとロクなこと無いんだもん…」

トホホ、とため息をこぼす。

「彼はイタリアからの転入生で獄寺隼人くんだ。皆仲良くするように」

「………………」

普通なら簡単にでも転校生が一言挨拶するのだろうが、担任は彼がそんなことをしなさそうだと思ったのか

何も言わずにスルーした。

「――じゃあ君の席は……、山本武!」

「は〜い」

「隣の席空いてたよな。沢田も面倒見てやれよ」

「へっ…!?」

いきなり自分の名前が出てきて顔を上げたら、例の転校生が脇の通路を通って

自分の真後ろにドカッと腰を下ろした。

(えぇぇぇ〜…!!?俺の後ろの席!?なんで!?他にも空いてる席あるじゃん…!)

少し泣きたくなりながら恐る恐る首をうしろに回すと、

「俺、山本武な!ついでにそっちのちっさいのは俺の親友でツナってんだ。仲良くしてくれよな」

なぜか朗らかな彼が自分の分まで自己紹介をしてくれていた。

(……や、山本…。俺の分はいいのに………)

出来ればあまりお近づきにはなりたくない。

山本がいれば大丈夫だとは思うが、自分のようなタイプは彼のような人種には良いように映らないだろうから。

ははは、と空笑いを浮かべたところで彼と目が合ってしまい、

綱吉は顔に出来るだけの笑顔を張り付けて、乾いた声を絞り出した。

「…さ、沢田綱吉です…。分からないことがあったら聞いてね。……よろしく」

「…………」

一世一代の告白?だったと言うのに、当の彼はそんな綱吉の様子に少し瞳を揺らしただけで

プイッとそっぽを向いてしまった。

(……う〜ん…。やっぱりシカトされたか……。まぁ、分かりきった反応ではあったけど…)

仕方なさそうに身体をもとに戻すと、なぜか背中に視線を感じた。

(――見られてる……?なんか俺、気にさわるようなことしたかなぁ…)

こりゃパシリ決定かな、なんて肩を落としてため息を付きながら、

綱吉はこの先の学校生活の安寧を祈るのだった。





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