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 アイコン Vivendo insieme〜同居人〜

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   こちらはまだ完結していません。途中までで申し訳ありませんm(_ _)m

 ライン ライン

――その後。

彼が並盛中に転校してきたその日は、思いがけないほどに平和に一日が終わった。

昼休み、いつも一緒に昼飯を食べている山本が「よう、獄寺も一緒に飯食わね?」と

綱吉にしてみれば大変怖ろしいような提案を彼にしたのだが、当の彼(ここからは獄寺くんで統一しよう)は

一瞬めんどくさそうな表情はしたものの、びっくりだが俺たちに付いて屋上までやってきた。

すこし距離を取りながらフェンスに背を持たれ掛けさせて座ると、各々弁当を広げ食べはじめた。

獄寺くんの昼食はというとコンビニにで買って来たのだろうか、缶コーヒーとサンドイッチという年頃の男子には

あまりにも少なく感じるメニューだった。

「なぁ獄寺、おまえそんなんで足りんの?おれの弁当分けてやろうか?」

「…………」

「…そ、そうだよね。俺のも良かったら食べて。うまいかはわかんないけど…」

なるべく笑顔を絶やさないように気を付けながら、冷や汗のつたう身体を無視して弁当を差し出すと、

彼は一瞬動きを止めてちらりと俺を見上げた。

「…ど、どうぞ」

「…………」

―――しかし彼は動かない。

いつまでこの態勢で止まってればいいんだと思い始めたあたりで、不意に彼は視線を逸らして

「……いや、いい」とつぶやいたのだった。



そして放課後―――。

「じゃあツナ、俺部活行くから。またあしたな!」

盛大に手を振って山本が笑顔で去ってゆく中、綱吉は気まずい空気を持て余していた。

朝からなんだかんだ言って獄寺くんと自分と山本で一緒につるんでいた。

いや、つるんでいたと言うか、ただ一緒にいただけなのだが、ここで自分から

「じゃあ獄寺くん俺も帰るね。またあした!」

と言葉を掛ける勇気は無い。

だって自分は部活にも入ってないし、普通の友達なら「じゃあ一緒に帰ろっか」という流れになる方が

自然だと思うからだ。

しかし自分と彼は今日出会ったばかりの間柄でもある訳だし、「じゃあまたあした!」でも構わないのかもしれない。

(…俺、友達って山本しかいないしなぁ…、こういう時どうしたらいいのか分かんないよ……)

ふぅ、と彼にわからないように小さくため息をついた。

(山本ならどうするだろう……)

きっと彼ならば「じゃあ獄寺一緒に帰ろうぜ!」とたやすく声を掛けるだろう。

(俺にも山本くらい度胸があったらなぁ…)

仕方ない、明日からも彼とは同じクラスで一緒に過ごすのだ。

あまり気まずい関係にはなりたくないし、思っていたよりも怖い人じゃないみたいだ。

とりあえず、声を掛けるだけ掛けてみよう…。

そう思って勇気を出して後ろの席を振り向いた綱吉は、ものすごく機嫌の悪そうな彼の表情に

一瞬にして身体を凍りつかせた。

「――ねぇねぇ獄寺くん。お家はどこなの?」

「イタリアから来たんだよね。日本語上手だね〜」

「あたしお菓子作るの得意なんだ。獄寺くんは甘いもの好き?」

「やだ、あたしだって作れるよ〜。獄寺くんはチーズケーキとか食べられる〜?」

……………女子ってすごい………。

それが綱吉の率直な感想だった。

こんなに機嫌悪そうな人相手に、よく笑顔でニコニコ話しかけられるよなぁ…。

俺だったら絶対放っておくけどな………。

綱吉がひとりで考えあぐねている間に、彼の周りは4,5人の女子で固められていた。

「獄寺くんッてすごいきれいな銀髪だよね〜。これ地毛なの〜?」

「ホント、目もすごい綺麗。あたし獄寺くんみたいな人はじめて見たよ〜」

などなど、彼の都合に構わずひたすら勝手に話を進めている。

しかし、彼はその間も終始苦い顔をしたままだ。

(……たぶん、獄寺くんってすごく目立つから、こういうの日常茶飯事なんだろうなぁ……。

すごい嫌そうだもん)

それでも今日こういうことが起こらなかったのは、日中ずっと山本や自分が側にいたからなのかもしれない。

(もしかして山本、こうなることがわかってて獄寺くんを誘ったのかな……)

昼休みのやり取りを思い出す。

山本はああ見えて結構まわりをよく見ている。

そして何気なく手を差し伸べてくれるお兄ちゃん的存在で、たぶん前より自分が「ダメツナ」と言われなくなったのも

山本のお陰なんだろう、と思う。

―――しかしその山本は今ここにいない。

(…………やっぱり俺がどうにかするしかないよなぁ……)

余計なことをして女子の機嫌を損ねて反感を買うのはとても恐ろしいが、自分と彼は(たぶん?)友だちになったのだ。

女子が怒らないような方法で、どうにか彼を連れだすしかないだろう―――。

綱吉はごくりと唾を飲み込むと、極めて明るい声を装って声を掛けた。

「―――獄寺くん、そういえば数学の根津が放課後来いって言ってたよね。

俺も呼ばれてたんだ。一緒に行こうよ」

にっこり笑顔を張り付けて、嫌がられるかもしれないとも思ったが右手の手首を掴んでクイッと引いた。

ここから退散するには、あくまで「急いでいます」風な雰囲気を出さなくてはならない。

彼はちょっと驚いたような視線を向けてきたが、「いいから」と目で諭して少し強引に立たせた。

「ちょっと沢田、あたしたち獄寺くんと話してるんだけど」

すかさず女子のひとりが非難めいた声を上げたが、

「ごめんね、急いでくるようにって言われてたんだ。ほら、根津ってすぐ帰っちゃうじゃん?

――またあしたね」

と自分にしては自然な素振りで彼女たちをかわすと、急いで教室を出たのだった―――。



彼女達に嘘がバレないよう職員室の前を経由して学校の外へ出ると、彼は何も言わず綱吉の後をついてきた。

(―――あれ?獄寺くんちってこっちでよかったのかな……?

もしかしたら商店街側にある住宅地かなと思ったんだけど……)

綱吉が住む地域とは違って商店街側の住宅地は新しく、今でも開発が進んでいた。

ふと疑問に思って彼の方を見上げると、当の彼も綱吉の方を見ていたようで、思わずバッチリ目が合ってしまった。

「……う、あ……、ご、獄寺くんも家こっちなんだね。俺んちもこっちなんだぁ。あはは……」

気まずい空気を逃れようと思わず言葉がこぼれ出たが、たいして何の効果も無かった。

極度の緊張のせいで湿ってしまった手のひらが気持ち悪い。

(……うぅ、何話せばいいかなんてわかんないよ………。神様仏様山本様、たすけてっ……!)

泣きたい想いで空を仰いだら、ふいに横から声を掛けられた。

「………なんで、嘘ついたんだ」

「――…えっ?」

いきなりの問いかけに何事かと首を捻ったら、

「……さっきの。数学の教師がなんとかって、お前言ってただろ……?」

クッと強い視線を向けられて少し怯むが、責められてる訳ではなさそうだと気付いて

少し自然な笑みが浮かんだ。

「―――…だって……、獄寺くん、ああいうの嫌いなんでしょう…?

だから女の子たちには悪いなぁって思ったけど、こういうのが一番手っ取り早いかなと思って……。

……ごめんね、迷惑だったかな」

苦笑いを浮かべたまま彼を仰ぎ見ると、獄寺くんは意外なほど真剣な顔で自分を見ていた、

「――…いや、そんなことない。…もともと煩い女は苦手なんだ。……だから助かった」

よく見ると外国人特有の白い肌にほんのりと朱が射していた。

(………もしかして、照れてる、の、かな…?)

強面な顔つきに似合わず、彼はとても素直な性格なのかもしれない、と綱吉は思った。

「そっか、よかった」

ふふふ、と笑い返せば、ほんの僅かに赤みが増した気がしたのだけれど、…それは見間違いだったのかもしれない―――。



ほんの10分ほどの距離を歩き家の近くまで来ると、彼はおもむろにポケットの中から一枚の紙切れを出して、

それを眺めはじめた。

そしてきょろきょろと辺りを見回しては紙に視線を戻すを繰り返している。

(――あれ?…どうしたのかな……?)

この辺りに知り合いの家があるとか、そんなとこだろうか?

そして沢田家に着き別れのあいさつにと綱吉が歩みを止めると、彼はそれに気が付かなかったとでも言うように

滑らかな足取りで沢田家の敷地に入って行き、玄関の呼び鈴を鳴らしたのだ。

『――…ピンポーン』

「は〜い、ちょっと待ってねー、いま出ます」

聞きなれた母の声が家の中から響いてきて「ガチャリ」とドアが開く。

「――…まぁ、もしかしてあなたが獄寺くん?おかえりなさい、待ってたのよ。

荷物もちゃんと届いてますからね。さぁ上がって」

「はい、今日からお世話になります」

学校での態度はなんとやら、彼は大変行儀正しく礼をすると奈々に向かって笑顔さえ向けて見せたのだった。





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