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   パラレルごくつな。22歳の大学生話。獄寺くんが運送会社で働いてます^^

 ライン ライン

それから3日が経過したある日の晩。

この日も鬼社員による容赦ない企業面接を終え、綱吉が自宅に帰宅すると、

室内に入っていくらもしない間に『ピンポーン』と玄関のチャイムが音を鳴らした。

(……あれ?誰だろう…。新聞の営業かな……?)

と言っても、時計はすでに夜の9時半をまわっている。

人が訪ねてくるような時間帯でもない。

こんな時、何故この家にはインターホンが無いのかと本気で思う。

『女性専用アパート』と謳っているのならば、それくらい付けるべきではないのだろうか…?

自分はか弱い女性、ではないけれど、この不景気の世の中、何があるかなんて分からない。

ちょっと抵抗を感じつつも、綱吉は恐る恐ると言った様子で、ドアにチェーンをつけたまま

ゆっくりと扉を押し開けた。

「………はい、どちらさまですか…?」

気持ち声が小さくなってしまったのは、どうか触れないでもらいたい。

成人した男らしくない綱吉の行動に非を唱える訳でもなく、ドアの前にいただろうその人物は

綱吉と目線を合わせるように身体を少々屈ませながら、

「こんばんは!先日はありがとうございました…!ボンゴレ運輸の獄寺ですっ!」

と非常に元気よく、ニカっと笑顔を向けてきたのだった。

「……ご、ごくでら、さん…?」 (えっ、こんな人、あの運送会社にいたっけか…?)

そう綱吉が首を傾げていると、彼は目深にかぶっていた帽子を脱ぎ捨てて、派手な色身のタオルを差し出した。

「あっ、あのっ…!これをお返しに伺ったんですが……、夜分遅くに申し訳ありません…!」

そこには可愛らしい黄色のひよこが数羽描かれており、綱吉の記憶は数日前の夜まで一気に遡った。

「――…えぇっ!? あの日の宅配員さん…!?」

「はいっ、先日は失礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ありませんでしたっ!!

……それなのに、とてもお優しくして頂いて、…本当にありがとうございました!!」

数十センチしか開いていないドアの前で、声を張り上げながら頭を下げ続ける彼に、綱吉は急いでチェーンを外すと、

「…あっ、あの、外じゃ声が響きますから…、良かったら入ってください」

と、慌てて玄関先へと招き入れのだった。



(――なぜ、こんなことに………)

玄関先に招き入れただけのつもりが、いつの間にか室内にまで上がられてしまった綱吉は (まぁ、玄関もリビングも3歩くらいしか変わんないんだけどね……)

、 と、仕方なさそうに首をひねりながら、彼のための茶を用意していた。

茶、と言っても安物の紅茶のティーパックくらいしか無かったけれど、男のひとり暮らしだ。

どこだってそんなもんだろう。

熱く沸いた湯を、実家から余分に持って来ていたカップに注いで1分待つ。

(…それにしても…、一体何を話せっての。ほぼ初対面の人と…)

狭い室内に敷かれたラグの上で、彼はキョロキョロと室内に視線を走らせながらも、礼儀正しく正座をして

部屋の主を待っているようだった。

(……なんかイメージ変わってないか…?)

先日会ったときには、目つきも悪かったしもっと怖い人だと思っていた。

――それが今日はどうだろう。

きらきらと輝く人の良さそうな視線に、上がりっぱなしの口角。

こちらが何か一言でも発すれば、淡く頬を染めてニッコリと言わんばかりに微笑んでくる。

(…心なし、恐ろしい気がするのは俺だけだろうか……)

少々首を傾げながらも、彼の手前に置かれたミニテーブルに、コトリとカップを落ち着けた。

「…あ、あの…、獄寺さん、今日のお仕事はもう終わりなんですか…?」

とにかく何か話題を…と思ったら、面白くもなんとも無いような言葉が口をついて出てきた。

「あ、はいっ!このアパートの隣の隣の家で最後だったんで、今日はもう終了ッス!」

「へ、へぇぇ、そうなんですか…。…ってそれじゃあトラック、……車は?」

「…あぁ、それならそいつん家の敷地に仮止めさせてもらってるんスよ。

ちゃんと許可とってますんで、ご心配には及びません!」

やたら元気よく答える彼の表情に、どうしても不安を覚えてしまうのは俺だけか…。

「…あ、そうなんですか……、それならよかったです…」

(って、何がよかったんだ、一体何が……!?)

客の家にトラックを仮止めさせてもらっちゃう図々しいドライバーなんて、はたして本当にいるんだろうか……?

綱吉は彼に気付かれないように、ふぅぅ、と小さなため息を吐いた。

「――…それより沢田さんって、ずっとひとり暮らしなんスか?――お部屋、綺麗にされてますよね」

「そんなことないですよ。……今、いろいろ忙しくて。

散らかすほど家に居られないだけですから…」

本当に、家なんて寝に帰ってくるだけで、実際はそれ以上でもそれ以下でも無い。

「……あの…、俺、ちょっと着替えちゃってもいいですか…?お客さんの前で申し訳ないんですけど…」

似合わないスーツの上着を脱ぎながら許しを請うと、彼は明らかに狼狽したような様子で、

「えっ!?あっ、いやっ…!お、俺こそすみませんっ、帰宅早々お邪魔しちまって……!

む、向こう向いてますんで……、どうぞ!?」

手をぶんぶん振りながら、明後日の方向に顔をそむけてみせた。

「…え、あ……、はい…」

そんな彼の様子に、(……ホント変わったひとだなぁ…)とおかしな感想を浮かべていたその時の俺は、

徐々に迫りつつある貞操の危機というものに、まだ気付いていなかったのである。


ラフなパーカーとジーンズに着替え終え、ふと綱吉が背後を振り向くと、やや赤い顔をした彼がガラステーブル上のカップを

穴が開くのでは…、と思う程の眼力で睨みつけていた。

「………獄寺さん?どうかしました……?」

「――! い、いえっ!なんでもありませんっ!……きょ、今日はホント暑いッスよね〜!?」

あはははは〜と、片手で顔を仰ぎながら豪快に笑う彼が、俺はいよいよ分からなくなった。

(……なんなんだろう、この人…。ホントよく分かんない…)

もともと人付き合いが多いほうじゃないから、こんな時どう対処すればいいのかわからない…。

綱吉は脱ぎ終わったワイシャツを洗濯機に放り込みながら、おもむろに腹を手でさすった。

(…しかし……、それにしてもお腹減ったよなぁ……)

昼にマックのてりやきセットを食してから、すでに8時間以上が経過している。

(きっと、まだ帰んないよね…)

目の前でやたらニコニコしている彼を少々首を傾げて見つめれば、少し落ち着いていた彼の頬に、再度ふわりと朱がのぼった。

(……大丈夫かなぁ?、この人。……もしかして赤面症とか…?)

あんまりひどいようなら病院に…(えっと、何科だろう…?)、と余計な事を考えつつ、俺は彼の姿を盗み見て、

(この際、仕方ないか…。居ついちゃった大型犬にごはんあげるようなもんだと思えば……)

と、大変失礼なことを思いながら冷蔵庫へと首を巡らせた。

「……あの、獄寺さん?」

「はい、なんでしょう!」

「夕ご飯って、もう食べましたか?」

「いえっ、この帰りにコンビニ寄って帰る予定なんで…!」

「じゃあ、うちで食べてきませんか?」

「はい!よろこんで!

……――って、えええっ〜……!?」

「――この間、荷物持って来てくれたじゃないですか。…アレ、母親からで。

いろいろ送ってくれるんですよ」

ベッド脇に設置された冷蔵庫のドアを開けて、ジップロックに入ったままの筑前煮ときんぴらごぼうを取り出した。

(……あ、箸2膳無いや…。ま、フォークあるし、いっか)

適当な皿に料理をあけて、電子レンジでチンをする。

ごはんは朝出掛ける前にセットしておいたから、炊きたてを食べられるはず。

みそ汁はフリーズドライ。

ま、こんなもんだろ。

朝じゃないけど、冷蔵庫の中にあった納豆と生卵もテーブルに置いた。

「…あ、あの……、沢田さんっ」

「もうできますから、ちょっと待っててくださいね」

やたらあたふたしている彼を横目に、俺はてきぱきと仕事をこなすと、ガラステーブルにどんどん料理を並べていった。

「はいっ、これで全部かな…?獄寺さんには俺の箸で申し訳ないんですけど…、コレ使ってくださいね」

と、普段自分が使っている箸を差し出す。

…すると、彼はいよいよ真っ赤になって、「ととと、とんでもありませんっ…!」と、両手をぶんぶん振ってみせたのだが、

「…これしかないんです。すいません」と俺が謝れば、「…いえっ!そうじゃないんです…」と泣きそうな顔で箸を受け取り、

うるうると目を潤ませながら、「い、いただきます…」と祈るように両手を合わせたのだった。


「!! マジうまいッス!沢田さんのお母様のお料理は最高ッスね!?」

目の前で勢いよく飯を掻き込むその姿に、

(――…なんか面白いな…、獄寺さんって)

と、少々彼を微笑ましく思いながらも、やっとのことで食事にありついた俺は、

己の口もとを熱のこもった視線で見つめられていたことになど、全く気づく余裕も無かったのである。



「――今日は本当にごちそうさまでした!」

「いえいえ、よかったらまた来てください。俺も久しぶりに楽しく食事できましたから」

最初はどうなることかと思ったけれど、食事後ずいぶんとリラックスして彼と向き合えたことに

俺は軽く感動を覚えていた。

「…ほ、本当ッスか!?」

「はい、仕事帰りにでも、また寄ってください」

「――は、はいっ!!……是非!」

いつものテンションの3割増しくらいの勢いで嬉しそうに返事をした彼は、凍えるような寒さの中、

背中を奮わせながら夜の道へと消えて行った。

その後ろ姿を見送りながら、俺は彼の存在が、ここ数カ月で冷え切ってしまった心に、暖かな何かを注いでくれたのを

気のせいではなくハッキリと感じていたのである。





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