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   パラレルごくつな。22歳の大学生話。獄寺くんが運送会社で働いてます^^

 ライン ライン

『ピンポーン』

寒さのせいか、それとも何か。

少々震える指を叱咤してインターホンを押した数秒後。

「は〜い」

やわらかく優しい声と共に、愛しい人と自分を隔てていたドアが開かれて、それはもう素敵な、とても愛くるしいあの人が、

風呂あがりなのだろうか、いつもよりしゅんとやわらかく湿った髪をタオルで拭きながら、俺を迎えてくれた。

「――こんばんは、沢田さん!お母様からのお荷物をお届けにあがりました…!」

「ありがとう。獄寺くん、今日はこれで仕事おしまい?」

「はい!もう終了ッス」

「そう、良かった!

――ほら、上がって!あんま綺麗じゃなくて悪いけど。寒かったでしょ?お茶淹れるよ」

あれから俺は、沢田さん宛てに荷物が届く度、というかそれよりもう少々頻繁に、彼の家を訪れるようになっていた。

今週もこれで2度目。多い時は週に3回はお邪魔している。

連絡もせず(携帯番号聞く勇気が無いからなのだが)、いきなりやってくる俺を、お優しくも可愛らしい沢田さんは、

まったく嫌な顔もせず、いつも俺のことを迎えてくれた。

「寒いよね、暦の上じゃもう春だってのにさ」

「ええ、そうッスね。また雪が降り始めてますし…」

あたたかい茶をパステル調のドットが描かれた大きめのマグに注ぎながら、彼はほわんと柔らかく笑った。

そんな笑顔に毎週デレデレの俺だが、実はあのマグカップ、度々俺が来訪するようになってから、

沢田さんご本人が選んで買って来てくださったものだ。

それだけで天にも昇る気持ち…。もしかして俺歓迎されてる…?と思わず勘違いしそうになった。

それに今彼の淹れている茶、あれは俺が先週プレゼントさせて頂いたもの…。

紅茶がお好きなのかな…?と思って、特別いいものをインドの茶園から直接買い付けたんだが、

あいつら中々の悪徳商法で『100g単位ナンテウレマセ〜ン!1キロカラネ』なんてせこい商売しやがるから、

どう考えても家庭用じゃねぇっ!つーくらい量が多くなっちまって、残りは実家のお母さまと差し上げたら、

『獄寺くん?うふふ。はじめまして、綱吉の母です。紅茶たくさんありがとう!とっても美味しく頂いてますよ〜♪

たくさん頂いたから、ご近所さんにもお配りしたの!皆さんとっても喜んでたわ。

良かったら今度並盛にも遊びにいらしてね』と、俺のケータイに直接お母様から電話が掛かってきてマジビビった。

ってか、ケータイ番号、どこでお知りになったんだろう……。やっぱボンゴレ経由かな。

――…しかし、沢田さんはお顔の造りだけじゃなくて、性格もお母様似なんだな…。

出会って間もない俺を、なんら抵抗もせず受け入れてくださる。

電話の向こうから聞こえた、あの朗らかで、まるで木漏れ日のようなやさしく温かな口調。

もし俺に母親がいたらこんなだったかもしれないと、ほんの少しだけ夢を見た。




「――…はい、どうぞ。

……ん?どうしたの?俺の顔、なんか付いてる…?」

「あ、いえ…!――……ありがとうございます、いただきます…!」

あわててマグを受け取った俺を、大きな目をさらに大きく見開いて見つめた綱吉さんは、

ふと考えるようなしぐさをした後、ふいにズイッと顔を近づけて、

「獄寺くん、大丈夫?…風邪?」

「…へっ?」

「だってさ、獄寺くんッていっつも顔赤いし、ちょっと熱っぽいよね。

――ホラ」

「ギャッッ!!!」

ふいうちでおでこに、自分のよりも幾分ほっそりした手のひらが当てられて、俺はカップを持ったまま

釣り上げられた鯛のごとく盛大に跳ねた。

「うわっ!紅茶こぼれてるよ!?……ほら!じっとして!」

「うぅぅ……、スイマセン……」

「やけどしなかった?………ありゃあ、派手に濡らしたね。コレ染みになんないかなぁ…?」

「すいません…!!汚れてしまったラグは俺が誠心誠意かけてお洗濯させていただきますっ!!」

土下座する勢いで謝り始めた俺を、綱吉さんは乾いたタオルで拭いてくださりながら

「う〜ん、ラグは別にいいんだけどさぁ。君、結構濡れてない?

いっそのこと、お風呂入ってきちゃったら?あったまるし。そしたら服、上がるまでに乾かしといてあげるよ」

結構すごいことをサラリと言ってのけたのだった。

「――…ええぇぇぇ〜っ!!?」

「狭い風呂で悪いんだけどさ。入ってきなよ。

服の方は大急処置で申し訳ないんだけど、帰ったらちゃんと洗ってね?

――…あ、制服だからクリーニングかな?」

とか言いながらテキパキと風呂の用意をしてくれている。

「はいこれバスタオル」

「…はい」

「ユニットバス、使い方分かるよね」

「……はい」

「狭いから気を付けてね」

「………はい」

「大丈夫…?本当に気分悪いの……?」

「…っ、いいえ、大丈夫ッス…!」

「そっか、良かった。俺お茶して待ってるから、ごゆっくり」

にっこりと微笑まれ、背中を押されて風呂場に向かうと、俺は緊張のあまり鼻血を流して倒れそうになった。

(沢田さんの使われたバスルーム……。………あったかくていい匂い…。

しかも待ってるって、待ってるって……!?

それってまさかベッドの上で!?(ただいま画像が乱れております)………。……ヤべェ、俺妄想全開……)


「――ごくでらく〜ん、服脱げた〜??」

「ブッ…!」

(いやいや違う、しっかししろ獄寺隼人…!!沢田さんはただ、服を綺麗にしようとしてくださっているだけだ…!)

「ごくでらく〜ん?服脱いだら全部こっちに放ってもらっていいよ〜?

そこじゃ濡れちゃうからさ〜」

「…っ、……は、はいっ!」

茹でだこのように身体まで真っ赤にした俺は、どうにか服をすべて取り去ると、軽く開けたドアの隙間から

床に服を落とそうとして、

「はい、じゃあこれ預かるね」

と顔を出した沢田さんの白魚のような手に手が重なって、俺はもうそれだけで十二分に暴発寸前まで高まった。

本当ならその手を掴んで風呂場であれやこれや……。

(ぐはっ…!! …………ヤッベェ、マジ倒れそう……)

人ん家の、しかも想い人の、しかも未来のボス!!の家で発情期のわんこのごとく目を血走らせている俺は

マジ危なさすぎて笑えない…。

(沢田さん!本当に申し訳ありません…!!)

彼の人のぬくもりが残った風呂場でどうにかギリギリのところで欲求に耐え、身体の熱を冷ますためにと

冷たいシャワーを豪快にかぶれば、その後の展開など目に見えているようなもの。

急速に身体の熱は下がったが、手足が凍る程に寒さを訴え始めれば、慣れない土地で慣れない仕事に

思いのほか疲れていた身体は、自分の意志とは関係なく、ゆるりゆるりと傾いでいった。

重たくなる瞼に抗えず、迫りくる白い光の中へと意識を手放すと、獄寺は想い人の家の浴槽で、

盛大な音を立てて引っくり返った――。





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