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 アイコン あの日、夏の日。

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   超完全パラレルで、お狐様の獄寺くんが出てきます。

 ライン ライン

その夜。

月明かりの当たる明るい室内で、綱吉は祖母の用意してくれた布団に身を転がしながら

今日起きたことを反芻していた。

(――――ハヤト………)

あの後綱吉は、隼人に祖母の家の目の前まで送ってもらった。

『また会おうな』

そう彼は囁いて、自身の首に掛けていた透明な石の首飾りを

綱吉の右手に握らせた。

『会いたくなったら呼べよ。きっとすぐ行くから』

そう微笑んだ彼の表情は、今までに見たどの表情よりも幸せそうで、

綱吉は自分の心臓が高い音を立てたのを、じりじりと熱い日差しに焼かれながら聞いていた。

横になったまま、月明かりに彼からもらった首飾りをかざしてみた。

それは涙型の透明な石で、明かりにかざすと虹色の光を美しく返した。

(……きれいだな……)

月明かりに、チカリ、チカリと石が輝く。

これはたぶん、ハヤトがつけるから似あうんであって、俺が付けても絶対に似合わない、よな…。

綱吉は首飾りを枕元に置くと、右手の指先を石に這わせてその表面のなめらかさを味わった。

(…………何で、ハヤトはあんなに良くしてくれたんだろう。

自分の正体のことだって、この石のことだって、何で、俺に………?)


―――何故、普段人間には見せないあの姿を、自分には見せたのか。

何故『会いたくなったら呼べよ』なんて言ったのか。

彼のくれたこの石にはどんな意味があるんだろう。

そのすべてがどんな理由でも、彼がくれたもののすべてが

綱吉にはとても嬉しくて、大切で貴重なものに思えた。

……友達のいない自分に、初めてできた、少し風変わりな友人。

(――そう言えば………。

ハヤト、俺と前に会ったことがあるって言ってなかったっけ………?)

そんな言葉を聞いたような気がする。

大きなひとみに押し上げられていた瞼が、ゆるりゆるりと落ちてゆく。

(……あんな目立つ人、一度会ったら忘れないと思うんだけどなぁ…………)

眠気に思考が麻痺してくる。

長旅に疲れていた身体は正直で、本当はもっと考えたいことがあったのに

なかなかそれを許してはくれない。

意識が完全に沈み込んでしまう前、綱吉は限りなく小さな声で彼の名前を囁いていた。

「…………。ハヤ、ト………」

その瞬間、右手の下に隠されていた石が、つぶやきに反応したようにまばゆく青白い光を放ったのだけれど、

眠りに落ちた綱吉に、それは分からずじまいだった―――。





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